大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長野地方裁判所 昭和25年(行)12号 判決

原告 菊池禎次

被告 長野県知事 外二名

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、請求の趣旨

原告訴訟代理人は、別紙目録記載の土地建物につき、長野縣北佐久地方事務所長内田親雄が昭和二十四年十二月十七日に爲した公賣は無効であることを確認する。被告池野恒吉は別紙目録記載の土地につき、右公賣による所有権移轉登記(長野縣地方法務局小諸出張所受付昭和二十五年三月六日第五五七号)を抹消すべし。

被告小諸物産株式会社は別紙目録記載の建物につき右公賣による所有権移轉登記(前同出張所受付前同日第五五八号)を抹消すべし。訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求めた。

三、事  実

原告は別紙目録記載の宅地建物を所有かつ使用して小諸劇場を経営して來たものであるところ、長野縣北佐久地方事務所長内田親雄は、昭和二十四年八月二十三日原告に対し入場税其の他の縣税、督促手数料、延滯金並びに滯納処分費等合計二十万五千四百三十五円八十九銭ありとして之を徴收する爲右宅地建物を差押えた。次で同地方事務所長は同年十二月十七日右差押えに基いて之を公賣に付し、その結果訴外興行師市川勘一が最高入札價額八十八万八千円で落札した。

然しながら、右公賣は左記各理由によつて違法且無効である。

(一)  本件宅地建物の登記簿によると、土地については被告池野恒吉が、建物については、被告小諸物産株式会社が夫々同年十二月十七日公賣に因り所有権を取得した旨登記してあつて、即ち本件公賣については入札者でもなく從つてまた落札者でもない右被告等に各所有権移轉登記を爲したものである。之は或は本件公賣に主として関與した北佐久地方事務所税務課長代理内田得平と被告池野及び小諸物産株式会社との共謀の下に虚僞の公文書を作成して被告等の名義に落札したものと察知される。又仮令右登記は右被告両名が市川勘一より競落人の地位を讓受けたとするも、本件の如き公賣処分は私法上の取引と異り徴税吏員が法律により滯納者の財産を公賣に付する行爲であるから、競落人に対し滯納による賣却処分を登記原因とする所有権移轉登記をなすべきにこれを略し右被告両名に対し登記手続をなすことは法律上許されないものである。

(二)  北佐久地方事務所長は、原告に対する税金滯納額合計二十万五千四百三十五円八十九銭あるものとして本件不動産につき差押並びに公賣手続を爲し、その結果八十八万八千円で落札された。

然るに、右不動産は別紙の通り宅地二筆建物一筆でその時價は右落札代金を更に超えるものであるから、右不動産の一部を差押え公賣に付しても右滯納税金等を充たすに足りる筈である。然るに同地方事務所長は何等鑑定人の評價をも俟つことなく輒く之が公賣を強行したのは、仮令同所長等が如何に合法手続によつて公賣を爲したものと弁解しても、本來差押並びに公賣は滯納税金の徴收に必要な限度に於て之を実施すべきで、特別の理由なくして其の必要以上に出で著しく多額の財産を差押え之を公賣に付することは徒らに滯納者に苦痛を與えその生活権を奪わんとする行爲であつて、名は滯納処分に藉りても実は職権の範囲を逸脱せる権利の濫用と謂うべきである。この裏面の事情として聞くところによると、小諸町では劇場経営について二館以上は法令上禁止されて居り、現在既に本件小諸劇場の外に小諸キネマなる一館が開設してあるのに、更に町内某有力者が他に一館建設の計画を爲し、それが爲北佐久地方事務所税務課員と通謀して原告経営の小諸劇場を取潰そうと企図し、結局原告はその犧牲に供されたものと傳えられて居る。

(三)  国税徴收法施行規則第十六條で差押調書には收税官吏の署名捺印を要するから、即ち自署を要するものである。然るに本件滯納処分に於て差押調書の作成名義人なる北佐久地方事務所長事務吏員内田親雄の記名捺印はあるが自署が欠けて居る。

(四)  国税徴收法施行規則第二十七條によれば、納付期日に落札代金を完納しないときはその賣買を解除して更に再公賣に付すべきものである。然るに本件公賣手続に於てはその納付期日を昭和二十五年一月六日と決定されたにも拘らず、競落人はその期限に完納せず既にそれより一個月八日も後になつて同年二月十四日に至つて漸く納付手続を爲した。

(五)  北佐久地方事務所税務課は、本件公賣の結果を未だに明らかにしない。岩村田税務署、小諸町役場並びに日本無盡株式会社等に対する原告の滯納税金や債務について夫々本件公賣代金を以て配分交付したというなら、その点を明瞭にすべきである。即ち本件公賣代金八十八万八千円が完納されて居るなら原告の総滯納額を差引いても尚相当の残額が生ずる筈であるから、その金員は速やかに原告に交付すべきである。昭和二十五年三月六日附同事務所長作成の計算書はその当時受領したが内容は不知である。本件公賣による所有権移轉登記日附である昭和二十五年三月六日を経過する四月十九乃至二十一日に亘り、前記三個所について調査したが、原告の滯納税金や債務は何れも交付されて居ないことが判明した。これも本件公賣について官公吏の汚職事件にからむ不正乃至違法行爲が伏在するものと考えられる。

(六)  不動産所有権移轉登記の登録税は所有権を取得した被告等が負担すべきものであることは法の規定するところであるにも拘らず、本件公賣に於ては右登録税を公賣代金中に含ませて居る。

以上(一)乃至(六)の何れの理由によつても本件公賣手続は違法且無効たることを免かれないから從つて右公賣に因る所有権移轉登記は抹消さるべきものである。仍て右公賣無効の確認並びに所有権移轉登記の抹消を求める爲本訴請求に及んだと陳述した。(立証省略)

被告等訴訟代理人は本案前の抗弁として、原告の主張事実は名を無効確認に藉りて居るが実は何れも公賣の取消事由の主張であつて、行政事件訴訟特例法第二條、地方税法第二十四條等により訴願等の行政手続を経た上でないと裁判所に訴訟を提起出來ないにも拘らず、原告は斯かる前置手続を経ずして直ちに提起した本訴は不適法として却下さるべきものであると述べ、本案について、主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中原告が別紙目録記載の宅地建物を所有且使用して小諸劇場を経営して來たこと、北佐久地方事務所長が右不動産について滯納処分を爲し、昭和二十四年十二月十七日の公賣に於て市川勘一が八十八万八千円で落札したことは何れも之を認める。これは原告が昭和二十三年以來地方税を滯納し、加之入場税の開催経営申告書、徴收済申告書等の提出を怠り、数回の督促にも拘らず全く誠意を示さないので已むなく爲したもので、滯納処分に着手し差押を爲した後も屡々原告に納入方を促したが依然何等の効果もないので、遂に公賣処分を断行したものであつて、右処分が違法且無効であるとの原告の主張は之を否認する。即ち原告がその理由として挙示するものゝ中、

(一)  に対しては、昭和二十五年三月六日本件の宅地を被告池野に、建物を被告小諸物産株式会社に夫々昭和二十四年十二月十七日の公賣を原因として所有権移轉登記を経由したことは之を認めるが、これは競落人市川勘一が昭和二十五年二月十四日右公賣代金を納入すると共に宅地は被告池野に、建物は被告小諸物産株式会社に轉賣し、所有権移轉登記についは直接右被告等に移轉登記を爲す様に右市川勘一及び被告両名より申出があつたので、北佐久地方事務所長は右申出を承認し、市川勘一に対する移轉登記を省略して便宜上右被告等に直接移轉の登記手続を爲したものである。右の如き中間省略登記は不動産に関する現在の権利状態を公示するに足りるから法令の趣旨に反せず、公序良俗にも反しないから有効である。その他の原告の主張事実は何れも之を否認する。

(二)  に対しては、北佐久地方事務所長が縣税等合計二十万五千四百三十五円八十九銭の滯納額を徴收の爲本件公賣を爲したことは之を認める。

然しながらこれは原告が右地方税の外、国税入場税及びその延滯金等合計六万余円の外に、町税及びその延滯金等合計三十一万余円の滯納があり、岩村田税務署長、並びに小諸町長も之が徴收困難の爲滯納処分の断行の外なしとし、茲に北佐久事務所長は右両名と協議の上、以上の全滯納額を取立てる爲に本訴不動産に対し一括滯納処分を断行したものである。而して本件不動産は宅地二筆の上に建物一筆が建設されて居るので之を分離して公賣することは事実上も妥当でないので一括して公賣した。尚本件不動産には昭和二十四年二月十七日原告は日本無盡株式会社に対し、債権極度額五十万円の根抵当を設定登記し、之に基き同会社は右極度額を既に貸付けてあつたものである。右の如き事情に基ずくものであるから毫も権利の濫用とはならない。其の他の原告の主張事実は何れも否認する。

(三)  に対しては、本件差押調書の作成名義人北佐久地方事務所長の署名が記名捺印であることは認めるが、国税徴收法施行規則第十六條の改正により記名捺印も含む旨明文が挿入されたから、この点は立法的に解決済である。

(四)  に対しては、競落人が代金納付期日である昭和二十五年一月六日を過ぎた同年二月十四日に納付手続を爲したことは之を認めるが、右は原告が昭和二十四年十二月本件公賣が行われた直後より同二十五年一月にかけて本件建物の床板その他内部を無断で取外し、之を他に賣却する等の行爲を爲したので、北佐久地方事務所長は競落人に対して公賣代金納付期日を同年二月十四日まで延期したものであり、右納期の延期は行政廳の自由裁量事項であつて何等法令に反するものではない。尚同事務所長はこの問題についても原告及び建物内部買受人の誠意なき爲已むなく同年三月二十四日小諸警察署長に対して原告を毀棄罪として告発したものである。

(五)  に対しては、原告主張事実は何れも之を否認する。滯納処分の結果については、既に昭和二十五年三月六日附北佐久地方事務所長作成の計算書を当時原告に書留を以て送付済であり、公賣代金八十八万八千円中、所有権移轉の登録税及び同移轉に関する証書の印紙税合計四万二千五百七十一円四十銭を差引いた、八十四万五千四百二十八円六十銭を、先ず北佐久地方事務所に於て差押当時の地方税等の滯納額二十万五千四百三十五円八十九銭と其の後生じた同滯納額四万九千九十九円二十銭との合計二十五万四千五百三十五円九銭に充当し、残額を岩村田税務署長外二名よりの交付要求に基ずいて岩村田税務署に六万六十三円、小諸町長に三十九万九千二百七十七円六十銭、日本無盡株式会社に十三万千五百五十二円九十一銭を夫々割当て、同年四月二十日之が交付手続を了したものである。

(六)  に対しては、本件公賣代金八十八万八千円中に、原告主張の登録税を含めたことは認めるが、右は昭和二十四年十二月五日附の公賣公告に於ける入札人心得書第十二項中に登録税法第二條第三項による登録税及び印紙税法第四條による印紙税を公賣落札代金中に含ませる旨を明示し、競賣関係人は何れも之を熱知の上にて公賣手続が行われたもので、右は聊かも法令に違反するものではない。從つて公賣代金中より右登録税及び印紙税合計四万二千五百七十一円四十三銭を差引いた残額を以て滯納税金等に充てたものである。

以上の如く如何なる理由を以てしても本件公賣手続を違法無効とすることは出來ないから、これが無効確認並びにそれを前提とする所有権移轉登記抹消を求める本訴請求は失当であると陳述した。(立証省略)

四、理  由

被告等の本案前の抗弁について先ず按ずるに、原告が本訴に於て求めている公賣の無効確認の請求はいずれも公賣処分の取消事由であつて名を無効確認に藉りているに過ぎないと謂うからには、本件訴状によつて原告の主張事実が明瞭に取消事由に該当するものと認められる場合が少くとも請求原因として訴状に記載されているものを釈明することにより取消事由のみであることが明瞭となる場合でなければならない。而して租税の滯納による差押並びに賣却処分が取消し得べきものか將又無効であるかの区別は右行政処分を違法とする瑕疵が法の定める訴願などではその救済手段として賄い切れるかどうかによつて定めるを相当とする。そこで原告が請求原因として主張するところを見るに、徴税吏員の公文書僞造とか職権濫用を無効原因とするのであつて斯様な瑕疵に対し処分のあつた日より二十一日以内の法定期間ある訴願を認めるだけでこの期間を経過すれば不服申立の方法を絶つが如きは民意を不法に梗塞するものと謂うべきであるから、訴願によらず常に訴訟により処分の無効を求め得るものと解する。

而して原告の主張のうち右の様な無効原因がある以上他に取消原因に相当する主張があつても一括して本案の審理を進めて判断するを適当とするが故に被告等の本案前の抗弁はこれを採用すべき限りでない。

仍て進んで原告の本案の請求につき按ずるに原告が本件宅地建物を所有且使用して小諸劇場を経営してきたこと、北佐久地方事務所長が右不動産について滯納処分を爲し、昭和二十四年十二月十七日の公賣に於て市川勘一が八十八万八千円で落札したことについては当事者間に爭いがない。然しながら右公賣処分を以て原告は違法且無効と主張し、被告等は之を何等の瑕疵なきものとして抗爭するのでこの点に関する爭点(一)乃至(六)の順序に從つて以下判断することとする。

(一)  については、昭和二十五年三月六日本件宅地を被告池野に、建物を被告小諸物産株式会社に夫々昭和二十四年十二月十七日の公賣を原因として移轉登記を爲したことは当事者間に爭いなく、原告は右は本件公賣に於て市川勘一が落札したに拘らず右被告両名が北佐久地方事務所税務課員と共謀の上虚僞の公文書を作成し、右被告等が落札したこととなして一切を処理したものと考えられるから、本件公賣処分は無効だと主張するが、成立に爭いのない乙第十二、第十三号証の各一、証人市川勘一、柳沢正雄の各証言並びに被告池野恒吉、小諸物産株式会社代表者柳田三郎の各本人訊問の結果、証人市川勘一、柳沢正雄の各証言により成立を認められる乙第十号証、証人柳沢正雄の証言並びに被告池野恒吉、小諸物産株式会社代表者柳田三郎の各本人訊問の結果により成立を認められる乙第十一号証、及び証人柳沢正雄の証言により成立を認められる乙第十二、第十三号証の各二を綜合すると、被告等主張の如く本件不動産については競落人市川勘一が公賣代金納入後宅地は被告池野に、建物は被告小諸物産株式会社に夫々轉賣し、所有権移轉登記については北佐久地方事務所長、市川勘一、及び右被告両名が合意の上所謂中間省略の登記をなし右被告両名を競落人としての賣却処分手続を履んだものであることが認められる。斯様な不動産の所有権移轉に関する中間の登記手続を省略することは不動産に関する現在の眞実なる権利状態を公示し登記の立法上の目的を達するに足るから無効とは謂い得ないばかりでなく、当事者間の斯様な合意は公の秩序又は善良の風俗にも反しないと謂うのが從來の判例の態度であつて、廣く私法上の取引に於て行われるところである。今日尚斯様な中間の登記手続の省略を有効と解するのであるが、本件の様な滯納による賣却処分も亦畢竟するに所有権の移轉と言う私法上の効果を目的とするものであるから、中間の登記手続を省略して直接右被告両名が競落したものとしてその旨登記手続を履むも不動産に関する現在の眞実なる権利状態を公示する登記の立法上の目的は達せられるばかりでなく、公の秩序又は善良の風俗にも反しないと謂うべきである。原告は又この点を捉えて被告等の共謀による虚僞公文書作成の如き不正が介在する旨主張するが、成程現実の競落人でない右被告両名を競落人として賣却処分の手続をなしその関係書類を作成したことは事実に相違ないが、これは右に述べた様に被告等が從來有効とされていた中間の登記手続を省略する意図に出でたものであつて公文書に対する公の信用を害する目的を以てなしたものでないこと明白であるから、これを公文書偽造となして本件公賣処分の無効にまでおよぼさんとするのは聊か牛刀を以て鷄を割かんとするの類であつて固より採用の限りでない。從つて原告の(一)の主張は何れもその理由がない。

(二)  については、北佐久地方事務所長が縣税等合計二十万五千四百三十五円八十九銭の滯納額を徴收する爲本件宅地建物を一括して差押え、之を公賣に付し市川勘一が八十八万八千円で落札したことは当事者間に爭いがない。原告は本件不動産は宅地二筆建物一筆でその時價は落札代金八十八万八千円を更に超えるものであるから右不動産の一部を差押え公賣に付しても滯納税金を充たすに足りるのに北佐久地方事務所長は何等鑑定人の評價をも俟たず本件公賣をしたのは権利の濫用で違法無効であると主張するが、証人柳沢正雄の証言並びに同証言により成立を認められる乙第三乃至第七号証、第十五号証及び原告本人訊問の結果を綜合すれば、被告等主張の如く原告は右地方税滯納額について数度の催促にも拘らず全然納入の誠意なく、剩え入場税の開催経営申告書、徴收済申告書の提出を怠る有様で已むなく本件滯納処分を断行したものであり、更に原告が右地方税の外、国税入場税及び之が延滯金等合計六万余円、町税及び之が延滯金等合計三十余万円の滯納があつて岩村田税務署長、小諸町長と協議の上以上の全滯納金額取立ての爲本件不動産に対して一括滯納処分を断行したものであり、尚本件不動産には被告等主張の如き日本無盡株式会社に極度額五十万円の根抵当が設定しあり之に基き同会社は原告に対し右極度額を貸付けてあつたことを認定し得る。更に本件不動産は宅地二筆を利用して建物を建設して劇場を経営して居たことは当事者間に爭いのない事実であるから、之を分離して公賣することはその経済的價値を著しく減じ、從つて公賣値段を減少させる虞れがあることは容易に認められる。この事実は証人市川勘一の証言中劇場だけの價値は時價二十万円位であると述べて居るのに対して、成立に爭いのない乙第十三号証の一(北佐久地方事務所長作成の本件建物に対する賣却決定書)に於て本件劇場の落札代金として五十八万十八円六十銭と計上して記載してあるのと対比して見るとき容易に看取することが出來る。加之証人岩田孝之助、前田二郎の各証言によるときは、右岩田は本件不動産の公賣に競買人として参加し是非之を落札したいと念願しながらも右前田の名義を以て三十八万円を以て入札して市川勘一の爲に敗れたことが認められ、之に反して原告は右不動産の時價が八十八万八千円の落札代金以上であると主張しながら何等それが立証を爲して居ない。斯かる理由からすれば本件公賣についてこれを権利の濫用と認むべき何等の事由がなく却つて寔に正当な処置と謂わなければならない。從つてまた原告主張の如く公賣に関して小諸町の某有力者の新劇場建設計画に関する陰謀の件に至つては全く判断の要を見ないのである。

(三)  については、被告等主張の通り、滯納処分に於ける差押調書の署名捺印は記名捺印を含む旨明文を以て解決されて居るから原告の主張は全く採用の余地がない。

(四)  については、競落人市川勘一が本件公賣当初に定められた代金納付期日である昭和二十五年一月六日を過ぎた同年二月十四日に始めて納付手続を爲したことは当事者間に爭いがないが、証人柳沢正雄の証言並びに同証言により成立を認められる乙第八号証の四、乙第十六号証によれば、原告は昭和二十四十二月本件公賣が行われた直後より同二十五年一月にかけて本件建物の内部を取毀して之を他に賣却する行爲に出た爲、北佐久地方事務所長は競落人市川勘一に対しては代金納付期日を同年二月十四日に延期すると共に已むなく同年三月二十四日小諸警察署長に対して原告を毀棄罪として告発したことが認められ、右納付期日の延期が特に法律上許されないとは認められないから右原告の主張も亦当らない。

(五)  については、原告は北佐久地方事務所長が本件公賣の結果を何等明らかにせず、岩村田税務署外二個所に配分交付した形跡もなく、その残額も相当あるべき筈であるのに原告に交付しないのは違法である旨主張するが、成立に爭いのない乙第十四号証、証人柳沢正雄の証言並びに同証言により成立を認められる乙第三乃至第七号証、第十五号証を綜合すると、被告等主張の如く本件滯納処分の結果については、昭和二十五年三月六日附同事務所長作成の法定の計算書を当時原告に送付済であり、更に被告等主張の如く、同年四月二十日附を以て岩村田税務署、小諸町役場、及び日本無盡株式会社等に対しても、その交付手続を了し、これによると結局日本無盡株式会社に対しては原告の債務額五十万円余の中僅かに十三万余円を交付したのみにて本件公賣代金は決済となり、原告に交付すべき残額は皆無であつたことが認められる。從つて公正な精算手続を了したことに何等の疑いを挿む余地がない。

更に右公賣代金の精算に関して関係者に汚職ありとの点については原告に於て何等の立証も爲さないのみならず前段認定からしても之を認めることは出來ない。

(六)  については、本件公賣代金に登録税を含めたことには当事者間に爭いがないが、証人柳沢正雄の証言並びに同証言により成立を認められる乙第二号証の一、二によれば、被告等主張の通り、本件公賣に関しては、昭和二十四年十二月五日に公賣公告を爲し、その中の入札人心得書第十二項中に本件登録税等は公賣代金中に含ませる旨の明文があり、右書面は北佐久地方事務所前の掲示板に掲示を爲したのみならず、公賣当日は入札人の面前で之を朗読した上注意を與えた程で、入札者は何れも之を熟知の上入礼したものと認められる。而してこれは法律上特に違法として禁ぜられる規定はないからこの点に関する原告の主張も亦採用出來ない。

以上の如く原告主張の(一)乃至(六)の総ての理由を以てしても本件公賣手続を違法無効と爲すことは出來ないし、原告提出の如何なる立証方法を以てしても右認定を左右し得ない。

從つて之が無効の確認並びにそれを前提とする本件所有権移轉登記抹消請求は何れも失当と謂わなければならない。

仍て原告の本訴請求は之を棄却すべきであり、訴訟費用については民事訴訟法第八十九條を適用して主文の如く判決する。

(裁判官 草間英一 市原忠厚 高津環)

(目録省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!